「初袷のこと」
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緊急事態宣言があけて、ふた月ぶりくらいにお茶のお稽古が再開した。
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通っている裏千家のお教室では、緊急事態宣言が発令されるとお稽古休みが決まりごとなので、コロナが世にはびこるようになってからというもの、お稽古してはひと月休み、再開してはふた月休みというふうに、虫食い状態でかろうじて続いている。
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さて、10月。
県に発令されていた宣言も解除されて、ひと月半ぶりに茶道のお稽古が再開されることになった。
更衣の決まりでは単衣から裏生地のついた袷の季節になる。
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昨日の福岡は午前中から気温も高く、洋服なら半袖でもいいくらいだった。
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朝から何を着ようか、迷い、迷い、していた。
外に出かけることも、人に会うこともめっきり減ってしまい、着物をまとうことさえもおっくうな日が続いていたので、いっそ洋服でもいいかと思っていたのが正直なところである。
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しかし、以前は当たり前のように毎週ごとに稽古の日がめぐってきたのも今は昔、つぎの稽古がいつ出来るかまったく先の読めない時代になってしまい、この頃は一回一回の稽古が以前にもまして貴重な時間になったのである。
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改めて10月の着物のことに話をもどす。
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多少暑くとも、今日だけはやはり袷を着ようと思った。
来週は単衣だろうが、綿麻だろうが好きなものを着ればいい。
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けれど今日だけは、10月が着たことを身体で感じたかった。
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初袷を楽しみたかったもうひとつの理由は、「綱場の先生」こと人形師小島与一の企画展のことがなんとなく気になっていたからである。
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先週、組合の用事で博多に出たとき、いつものように綱敷天満宮に手を合わせ、おみくじをひいて帰宅した。
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すぐそばに立地する、博多町家ふるさと館で、与一展が始まっていたのなら寄って帰ればよかったと気づいたのはその日の夜だった。
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与一の代表作「初袷」は、最初のお嫁さん、ひろ子をモデルにしたと言われ、その姿はこざっぱりとした縞の着物をまとっている。
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現代の暦では初袷は10月秋の更衣、どう考えてもひろ子の着物の色柄が寒々としてちぐはぐにかんじられて調べてみたところ、かつて”初袷”とは綿の入った冬衣から袷の着物にかわる四月一日のこと、季語としては夏であることがわかった。
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それであの、清々しい青と白の縞なのだとスッとつながり思わず頬がゆるんだ。
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「こんなに暑い日なら、薄い着物を選べばいいのに」と横で口出す主人にむかって、あんたも私が死んだら喪があけるあけんも気にもせんで一年も経たんうちに新しいお嫁さんを見つけるとやろうねと、皮肉と冗談のこもった夫婦の会話を横で聞いていた10歳になる下の娘が「それなんのこと?」とたずねてくる。
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一生懸命に人を愛し、そしてまた、何もなかったかのように新しく一生懸命に人を愛した、そんな与一の生き方が羨ましい。
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ときは令和の初袷。
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深まりゆく秋を感じたくて、こっくりとした栗色の紬を選んだ。
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いまはもう、初袷は秋の季語である。
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