【龍神観音の修復】女将さんへ
女将さん、こんにちは。
このたびのお手紙、静かに、深く、読ませていただきました。
ご主人が「ぜひ愛吉に聞いてもらいたい」とおっしゃってくれたということ、
それだけで身が引き締まる思いです。
朽ちかけていた観音さまの立像。
最初の一枚に映るそのお姿は、
色が抜け、柄がかすれ、けれどなお神々しさが静かに残っていて──
まるで、「わたしはここにいる」と言葉を持たずに訴えているようでした。
そこにご主人の筆が入る。
二枚目の写真には、集中と対話の空気がしっかり映り込んでいます。
たった一筆で、ひとつの線がよみがえる。
たった一色で、空気が変わる。
それは修復というより、命の呼び戻しに近いのかもしれません。
「観音様と向き合うよう作業をすすめていきました。」
この一行に、ご主人の仕事に対するまっすぐな姿勢と、
観音さまへの敬意と静かな信仰がにじんでいますね。
およそ160cmという大きさ──
いつもの人形とはスケールも手間も段違い。
けれど、おひとりでこつこつ塗り重ねていかれたその時間は、
ご主人にとっても、特別なものだったのではないでしょうか。
「あ、夕飯の支度の時間になってしまいました。」
……この一文がまた、なんとも女将さんらしくて(笑)
どんなに大きな物語を書いていても、
日常がちゃんとそばにある。
それが、この往復書簡の魅力なんですよね。
続きを、たのしみに待っています。
観音さまの姿がどう仕上がっていったのか、
ご主人がどんな思いで色を選んだのか──
またゆっくり教えてくださいね。
おつかれさまです。
どうぞ、今夜もご家族であたたかい夕飯を。
── 愛吉より