新作「化粧」で表現したかったこと。
秋の新作をお披露目する「白彫会新作展」が無事に終了しました。
たくさんのご来場ありがとうございました。
今回は、「化粧」と題した新作を出品させていただきました。
一品作を制作する際、だいたいまずはじめに主人が作りたいものを話してくれます。
今回は舞妓さんが白塗りの化粧をはじめているシーンをということでしたが、最初は私はかなり反対しました。
というのも、京都の舞妓さんのおぼこい感じはなかなか他県の人間、特にお茶屋遊びをしていない人間には出しきらんのやないやろうかと思ったからです。
その土地で触れた者には勝てないよ、ムリだと思うよと。
いろいろと私なりに考えることを伝えたのですが、主人の「今回、表したいのは京舞妓らしさではなく、鎖骨、首の美しさであって、舞妓というモチーフは自分にとってそこまで重要ではない」という言葉を聞いて、それならばとスッと納得しました。
舞妓の姿は「箱」のようなもので、彼の表現したいものは別の部分にあると。
それを作るために彼が舞妓を選んだのであれば、わたしは最大限の協力をしようと心が動きだしました。
そうしてテーマやモチーフが決まると、彼の手によって粘土が形を形成し始めます。
平面の資料を集めるのはもちろんですが、一番は彼の頭の中のイメージを実物の人体で立体化するのが私の役目だと思っています。
着物のシワや、骨格、腕の曲がり具合、女性らしい体のライン、できる限り彼の頭のなかでイメージしているものを汲み取り目の前に具象化していきます。
「平面の資料はいくらでも手に入る、立体の資料はできるかぎり残しておいてほしい」と以前、資料を整理する際に彼から言われた言葉がいまも頭に残っています。
腕は右手でものを持ったほうがいいのか、左がいいのか。
互いに意見を交換しながら、進めていきます。
今回は、日常の着物姿と日本髪をきっちりと作りたいと私も考えていたので、資料は多岐にわたります。
ネットの検索サイト、日本画の画集、舞妓さんの写真集など、いくら主人が舞妓らしさは主のテーマではないとはいえ、厳しい約束事のある世界です。
わかる方がみたら間違いはすぐに指摘されます。
自分が知りうる限りの知識と経験に新たなものを加えて、細部をアドバイスして決めていきます。
あたりまえのことですが、必ず最終的な判断、決定は主人がします。
約束事をふまえるならば「コレが正解」というのは伝えますが、それを取り入れるか否かは作家本人が決めることだと思うのです。
私は、自分の存在が彼の資料のひとつであればいいと思っています。
例えば、身体の部分を作っているうちに最初に考えていた髪型とのバランスが合わなくなってくると、別の髪型(結い方)に変えてもらうこともあります。
意見を突き合わせ、突き合わせ、ようやくこれで原型が仕上がりました。
窯にいれて焼き上げているうちに、着物の色柄を決めていきます。
彩色の準備です。
舞妓の年齢やキャラクターを考慮しながらも、ここは私が一番楽しませてもらえる工程になります。
ハギレや写真などから、今回の人形に一番似合いそうなかつ、主人が描きやすい柄を選びます。
何より贅沢な”着せ替え遊び”をさせてもらっていると思っています。
着物のみに限らず髪飾りなどの小物にいたるまで。一色一色がそれぞれを引き立てるよう、配色やバランスを決めます。
いつも思うのは、彼との制作はコピー&ペーストに似ているなと。
彼の脳裏にあるものをコピーして私の身体でペーストします。
それをまた主人の手がコピーして、粘土にペースト。
機械的な作業ではないので、キャッチボールにも似ているかもしれません。
なかなか伝わらないことも多々ありますが、根気よくイメージを共有しているうちになんとなくわかってきます。
フォルム、色柄、どの角度からみてもカタチよく仕上げるのは本当に難しいことだと思います。
毎回主人の造形力、表現力には感心します。
白紺に赤。赤の色も、緋色にするか朱赤にするか、とことん話し合いました。
背中やデコルテライン、腰のあたりの艶っぽさも主人らしい仕上がりだと周りの方々からお褒めいただきました。
今回は化粧をする前のいわゆる「すっぴん顔」だったので肌や唇の色から眉、目の描き方などはじめての挑戦だったようです。
主人らしい、良い顔に仕上がったと思います。
今回の新作で一番うれしかったというか、おもしろかったのは、新作展会場には別々に訪れたのですが撮ってきた写真がほぼ同じものだったことです。
それぞれに仕事をこなし、最終的に「答え合わせ」をしたらバチっとあった感じでスッキリしました。
ふたりが一番いいと思ったカタチ、つまり表現したかったものとはこれだったんだなと一致しました。
一品作というのは、型を取らないぶんカタチに制限なく作れるし、色柄も量産を意識しなくていいので思い切って細かな彩色にチャレンジすることができます。
今の自分にはこれだけの仕事ができるということを、みなさまに見ていただくものだと思っています。
そんな主人の「発表会」が無事に終わりました。
反省点はまた次回作への課題として、これからも精進いたします。
応援どうぞよろしくお願いいたします。